「ジェニー」についてジェニーは、タカラが製造販売する着せ替え人形です。リカちゃんが「ままごと」を目的とし幼年層を対象としているのに対して、ジェニーは「ファッションコーディネート」、平たく言えば着せ替えそのものを目的として、少女から成人を対象としています。ですから、リカちゃんシリーズが「○○屋さんセット」とかに注力しているのに対して、ジェニーシリーズでは服飾品に絞った展開がなされています。 ジェニーの誕生このジェニーですが、その誕生にはちょっと特殊な事情があります。忘れてはならないのが、バービー人形の存在です。 バービーは米国マテル社により1959年に発売が開始されますが、人形も服も最初は日本製でした。日本人は手先が器用で、本体も洋服もまとめて日本で生産ができ、しかも当時米国に比べ遥かに人件費が安かったから。この生産に携わったのが当時足立区や葛飾区に集中していたビニール工業品の町工場で、今でもこの界隈でおもちゃのメーカーが多いのはこの名残です。 マテル社は3年後の1962年に日本でもバービーを売り出しますが、欧米人と日本人の好みの違いのためかぜんぜん売れず、1967年のタカラによるリカちゃん人形の発売開始と大ヒットでほとんど駆逐されてしまいます。そして1970年代には日本の人件費が上昇して単金が上がったことから、バービーの生産もより人件費が安い東南アジアに移り、日本ではその姿をほとんど見なくなりました。 時は流れて1982年。リカちゃん人形で有名になっていたタカラはより高年齢層むけの人形を企画開発し、米国マテル社と契約してこの人形に世界的に有名な「バービー」の名称を使えるようにしました。リカちゃんとの住み分けにより、リカちゃんを卒業した女の子の市場を開拓しようとしたのです。 こうして産まれたお人形「タカラのバービー」は、それまでのバービーとはまるで別人の「日本人がデザインした日本人好みのバービー」でした。ロサンゼルス出身で8月1日生まれの17歳。髪の毛はもちろん金髪ですがオカッパに整えられ、タレ目と相まって本家バービーより少し幼い感じの少女になりました。この「タカラのバービー」は、今までのバービーの苦戦が嘘であったかのように飛ぶように売れました。やはり日本人好みのスタイルと顔だちがヒットしたのです。 実は本国アメリカでも「Japanese Barbie」と呼ばれ可愛いとヒットしてしまい、マテル社が関わらない形で輸入され拡販されてしまうのです。 ところが4年後の1986年、マテル社との契約更新の時になってマテル社から「契約更新はしない」と突き放されてしまい、タカラはバービーの名が使えなくなってしまいます。実はこの後「タカラバービー」にそっくりな人形をマテル社が日本の別メーカーと契約して「バービー」として売り出しましたから、よく売れるなら自分のところで儲けようと考えたのかもしれません(その後タカラから訴えられるなどの経緯を経て、現在ではこのバービーは売られていません)。 バービーの商標が使えなくなり困ったタカラは1986年、よく売れていたこの金髪タレ目のやさしい顔立ちのお人形に新しい名前をつけ、再スタートしました。 そして生まれたのが「ジェニー」です。 再スタート時、名前が変わることでファンの子供たちが混乱しないようにこんな設定がされました。少女バービーはミュージカルの主演に応募し、厳しいレッスンを経て見事主役に抜擢されます。そのミュージカルこそが、ジェニーという名の少女が主人公の物語でした。スタッフからの「今日から君はジェニーだ!」の一声が、バービー、もとい、ジェニーの始まりでした。 ・・だから、ジェニーは実は芸名で、本名は今でもバービーなのかもしれません。 スーパーアクションジェニー1986年の発売開始以降たくさんの友達ができ、また山ほどの衣装類を次々と出してきたジェニーですが、発売10年の節目となった 1996年、今までと全く違う構造の「スーパーアクションボディ」を使った「スーパーアクションジェニー」が販売されます。普通の ジェニーは首、肩、腰と股関節を回せるだけでしたが、スーパーアクションジェニーはほとんどの関節を人間と同じように動かすことが できます。 この「スーパーアクションジェニー」こそが、我が家のジェニーです。構造的にはタカラが過去に製造販売した「サイボーグ1号」や「ミクロマン」などの全身の関節が可動な男の子向けの人形に準じています(手首の関節はミクロマンは球体関節でしたのでここは異なります)。そうした可動できる人形のノウハウがあったからこそ、できたのでしょう。 スーパーアクションボディは2000年の生産終了までの間にジェニーの友達たちにまで展開されましたが、巷ではこのボディを 改造するのが流行し今日のドールブームの火付け役となりました。それまでフィギュアなどの人形趣味があった人たちが「いろいろなポーズができる人形は面白い!」と、スーパーアクションジェニーを買っては顔を書き直し、髪の毛を挿げ替えて、オリジナルの人形を作るのです。これが火付け役となって、今日のドールブームが起きました。スーパーアクションボディ生産終了後はがっかりしたファンのためにボークスなどの会社が類似の可動式のボディを作ったり、さらに大型サイズの可動式お人形ができたり、ドールショウなどさまざまなイベントが開かれるようになったのです。 スーパーアクションジェニーはドールの世界においてエポックメイキングだったと言っても過言でないと思います。 2000年のジェニー2000年には新しい「ナチュラルボディ」を使った「フォトジェニックジェニー」がデビューしました。これは事実上 スーパーアクションジェニーの後継にあたり、関節が動かせるのに加え、全身が本物の人間のように継ぎ目がなくしかも柔らかい素材 でできています。だから水着など露出度の高い服装ではまるで本物の人間みたいですし、お尻や胸などはハダカのままだと 「18禁かと思うほどヤバイ」ぐらいです(笑) ただしこのナチュラルボディは、その関節は針金が中に入っているだけなので、長く遊んでいると、骨折します(笑)。また全身がゴムのような樹脂でできているため着せ替えはたいへんしづらく、ぴったりしたワンピースの水着などは、パウダースプレーをかけるなどテクニックを駆使しないと着せられないほどです。子供向けでなく、高年齢層むけのお人形と言えるでしょう。またタカラ自身からも「対象年齢16歳以上」などと、所謂「成人向け」と言われる領域の服飾品も発売されてきます。大人でジェニーを買い求める人が増えてきたことへの対応だと思われます。 また普通のボディも含めジェニーの顔が変わりました。時代の好みに合わせてかそれまでの垂れ目が釣り目になり、眉やアイライン などがはっきりし、顔も少しだけ小さくなっています。年齢が少し上がったような雰囲気です。「2代目」と呼ぶ人もおられるようです。 ただ残念なことに、この辺りからジェニーの販売量が減っていき、新商品の発表も少なくなっていきます。 2010年の「ラブジェニー」自然消滅か・・と思われたジェニーでしたが、2010年にモデルチェンジして販売がされます。顔は再び初代の、それも最初期のような幼い顔立ちに戻り、頭が少し大きめでかなり幼い雰囲気になりました。 「ラブジェニー」と名づけられた3代目ジェニーは、店頭では殆どみかけずタカラの通販サイトを中心に展開されました。このジェニーはボディがかなり特殊で、上半身は動きますが下半身は硬い樹脂でできていて腰から下は販売時につけられたポーズのまま一切動きません。着せ替え人形というより、飾るためのフィギュアのような用途で作られた様子です。 2014年にラブジェニーが何種類か、2016年に30周年を記念したエクセリーナジェニー(ジェニーの高級版みたいなもの)が1種販売販売された以後、タカラトミーでは新商品はつくられていないようです。残念ですが、復活を願うばかりです。 追記2023年5月、高校生になった設定の「ハッシュタグボディリカちゃん」のフレンドドールとして「#Licca #ジェニー」が販売されました。高校生ファッションモデルとして既に活躍中で、リカちゃんの憧れの存在だとか。 リカちゃんの世界観にジェニーが入ってきたのは、初めてか!? |