「亜麻色の髪の乙女」の再ヒットで、「亜麻色ってどんな色?」って調べたくてここに訪れる方も多いようなので、それについて書いてみました。
麻のシャツとか麻のロープとか、見たことや使ったことがあるでしょう?これらは植物の「麻」を水につけて発酵させ皮を剥ぎ、中身を乾燥させて、くしでとかすように細かくていねいにすいてできる繊維を編んだものです。麻の繊維はじょうぶで繊維が荒いことから編んだときに空気がよく通り、主にロープや運搬用の袋、作業着や夏もののシャツなどに使われています。またその実は料理にも使われます。ただし、ある種の大麻の葉や茎を加工すると、マリファナやハシッシュといった麻薬を作ることができてしまいますから、日本では大麻の栽培は法で規制されています
※(大麻=麻薬、は間違いで、ある種の大麻をある方法で加工したもの=麻薬、が正しい)
さて本題です。「亜麻」は「麻」と呼ばれる植物の中では背丈のちいさなもので、だいたい1mぐらいに成長し、白または紫色のかわいらしい花をつけます。見た目と同様、その繊維も麻の中では細く柔らかいために、シャツやシーツなどに利用されています。
亜麻はヨーロッパの言語では「フラックス」とか「リン」と呼ばれます。フラックス というのは、仕事や趣味でプリント基板を扱われている方ならピンとくるでしょう。そ れの元の意味です。また「リン」ですが、「リネン」とも発音されます。よくホテルや 旅館などに行くと「リネン室」といって、ふとんやシーツを保管しておく倉庫を目にし ますが、亜麻からとった繊維で寝具が作られたことに由来するようです。あとこれは知らなかったのですが、 女性下着を指す「ランジェリー」の語源も、もとは亜麻から来ているそうです。
で「亜麻色の髪の乙女」の「亜麻色」ですがもちろん亜麻の花の色ではなく、茎からとれる繊維の色のことです。植物としての亜麻はもちろん緑色をしていますが、最初に書いたような工程を経て糸になったときには、薄い茶色に変色しています。きれいな表現をするならば、「収穫の時期を迎えた、光輝く稲穂の海」の色でしょうか。熟練した職人がつくった麻の糸はその表面が光っています。
但し「亜麻色」という色彩は、日本では例えば慣用的な色の名を定めたJIS Z 8102規格でも記載が無く、規格等で定められているわけではないようです。なので例えば、こんなふうです。
「WEB色見本 原色大辞典」様(http://www.colordic.org/)によるWebカラーコードは「#d6c6af 」でこんなふう
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「亜麻色の髪」ですが、もちろん明確な決まりごとがあるわけではありませんし、さすがに亜麻の繊維とまったく同じ色の髪というのはそうそうあるものではありません。あくまで「例え」としてそう呼ばれているだけです。
金髪の一種と考えれば良いようですが、いわゆる「ブロンド」とは少々違うようです。平たく言えば、金髪から「金色の光沢」を とったような色ですね。淡い金髪、というところでしょうか。
ヨーロッパでは一般的に、南へ行くほど髪の色が濃く、北へ行くほど髪の色が薄いと言われているとのことです。明確な統計や人種的な 理由があるわけではありませんが、自然とそうなっているらしいのです。その中でやや北東側、ドイツから西部ロシアやノルウェーに かけての地域では、純粋な金髪の色がやや薄くなり、逆に髪に色がついたアジア民族の血がすこし入ってきます。このあたりの人々の 髪の毛が「亜麻色」に似ているようです。うーん、言葉で書くのは難しい・・・
ついでですが、島谷ひとみさんの「亜麻色の髪の乙女」がヒットしましたね(2002年)。ここを読まれている方ならご存知かと思いますが、この歌は1968年に「ヴィレッジ・シンガーズ」というグループサウンズが歌いヒットしたもののカバーバージョンです。さらにひもといてみると、フランスの作曲家ドビュッシーが1910年に発表した曲「La Fille aux cheveux de lin」(亜麻色の髪の少女)に辿り着きますが、ヴィレッジシンガーズの「亜麻色の髪の乙女」はこれを参考にしたわけでは無いそうです。
ちなみにさらに蛇足ですが、「グループサウンズ」って「GS」とも略され、1960~1970年代に流行った言葉で、グループでフォークソングを歌うバンドの人たちを指します。有名なところでは「ザ・タイガース」や「ザ・スパイダース」、「ワイルドワンズ」などがありますね。
フォークソングはどちらかというと10代や20代の青年の悩みや苦労、恋愛を歌ったものが多いのですが、これが当時の大人の間では「反社会的」と言われ「グループサウンズを聞いている=不良」とされていました。当時は学生たちが大人社会のおかしなところを力づくででも正そうとする「学生運動」がさかんで、学生集会とかの集まりでもグループサウンズがよく歌われていました。そんなこともあって、大人たちから「有害な音楽」とされていたのです。今に例えれば、「亜麻色の髪の乙女」を聞いていたら怒られてスマホを取り上げられその場で壊され不良扱いされて親が心配して学校に相談にいく・・・今では全く考えられないことですが、現実にあったのです。ところがそれが逆に、グループサウンズを根付かせることになったのですけど。
金髪を淡くしたような髪を「亜麻色」と呼ぶのはヨーロッパでは昔からありましたが、日本でそう呼ぶようになったのは、このヴィレッジシンガーズの歌がヒットしてからのようです。それまではせいぜい「外人=金髪」ぐらいの見方しかできなかったでしょうし。
ただ、個人的な意見では、日本で「亜麻色の髪」という表現を最初に大きくとりあげたのは、手塚治虫の「リボンの騎士」ではないでしょうか? 昭和28年から雑誌「少女クラブ」に連載され、昭和38年から「なかよし」で再連載。件の「亜麻色の髪」はこのなかよし版と、その4年後に放映されたTVアニメ版で出てきます。
主人公でシルバーランドの王子サファイアは、ほんとうは女の子。ただ王国の決め事として女性は王位につけず、しかも政敵が王座を狙っていることから、「王子」として男装をし続けることを強要されています。
あるとき隣国ゴールドランドとの謝肉祭が開かれました。女の子の姿で出たい・・・と泣くサファイアを哀れに想った王妃は、彼女にカツラをかぶせて 変装させ、女の子として謝肉祭に忍び込ませます。サファイアはそこでゴールドランドの王子フランツからダンスに誘われ、恋をしてしまうのです。一方、フランツ王子のほうもいっしょに踊ったその女の子に恋をします(この時点で、フランツ王子はその女の子がシルバーランドのサファイア王子とは気づいていません)。
城の隅で、フランツと、普段の王子の姿に戻ったサファイアはこんな会話をしていました
フランツ「あの亜麻色の髪の少女ともっと踊っていたかった・・・」
サファイア「きっとその子もどこかでそう思っているだろう」
サファイアが言う「その子」は、もちろん自分です。このときのサファイアの表情がとっても切ないのです・・・
ただマンガの中では白か黒かしかないわけですから、亜麻色と言われてもわからないのですけれどね。後になって作られたアニメの中では茶色のカツラをかぶってそれを「亜麻色」と言っていました。後になって考えればちょっと違うような・・・
この作品を知っているからか「亜麻色の髪」といったときには、島谷ひとみさんがさわやかに歌うイメージや、ヴィレッジシンガーズが歌うノスタルジックなイメージもさることながら、リボンの騎士のちょっと切ないイメージがまとわりつきます。おおきくくくってしまえば「金髪」でしょうけど、「金髪の少女」ではなんか俗っぽい感じがしてしまいます。それを「亜麻色の髪の少女」というとなんだか素敵な感じがしますよね。
(ネタバレ失礼ですが、「リボンの騎士」最終回で、サファイアとフランツはめでたく結ばれますのでご安心を)
(ついでに超蛇足ですが「リボンの騎士」には「双子の騎士」という続編があります。結婚したサファイアとフランツは男女の双子を授かりますがこれがまたまた政敵に利用されそうになり、妹・ビオレッタ姫は「王子」として振舞う羽目に。で・・・幼稚園のおゆうぎ会で私、このビオレッタを演じました(注:私♂です)。当時「王子様役だ!」とはりきってましたし写真もありますが、数年後、何かのとき手塚治虫の漫画を読む機会あり、ビオレッタは実は女の子だと知りました・・・が自分小さい頃女の子っぽかったこともあり、当時なんかちょっと嬉しかったような)
参考にさせていただいたサイトへのリンクを並べてみました。
亜麻についての詳しい説明や亜麻を語源とする言葉の解説などがあります。
麻を刈り取り、糸にし、織物にするまでの詳しい説明があります(ありました)。
昔は日本でも、北海道で亜麻が栽培されていました。その産業発祥の地である札幌の麻生町のサイトです。